2010年6月アーカイブ

緑はよく戦場のメリークリスマスを弾いてくれた。
ブラウンのアップライトピアノで88の白と黒の鍵盤を滑らかに、そして時には苛立ちをあらわにして音を奏でた。

緑がピアノを弾き終わるといつも僕は苛立ちと共に彼女を愛撫した。1999年のことだ。


まだ大学生だった僕は正式に親元を離れ一人関西で生活を始めた。
新幹線沿いの古びたアパートは7畳一間の正方形の部屋で、それから6年間という月日を送ることとなる。
左隣の住民はどうやら音楽家を目指しているらしく毎日必ず真夜中の0時から2時の間はコントラバスの音色が正確に一音もたがわずに僕の部屋へと流れ込んだ。右隣の住民はとても静かなやつで彼の部屋からはテレビの音しか聞こえなかった、彼が一度も話しているところを見たことがない。

人生を嘆いたり、現代の利便性に心躍らせてみたり、不毛な時間を夜と共に過ごしてみたり。
この十数ヶ月という時の流れを改めて振り返ってみたり。

夜空を眺めると街並みの中にひっそりとたたずむ三日月が煌々と輝いている。
僕はワンルームの小さな部屋で88の鍵盤と共に人生を見つめ直す。
とても静かな夜だ、なんら雑音も無く、ただただ僕が奏でるメロディだけが心の奥底へと吸い込まれていく。静かな風が部屋を横切る。

とても心静かな夜だ。人生を見つめ直すにはうってつけな夜だ。

静かに目を開けると黒と白の模様が綺麗に人生の模様と重なり合っていた。

2011年9月

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